『SAS プリンス・マルコ』

ジェラール・ド・ヴィリエ 『SAS プリンス・マルコ』シリーズ

はい、おはよう。

何やら世界が激変しそうな雰囲気ですが、こんな時は外出を避け、自宅で本でも読みながら静かに過ごしましょう。

というわけで、今回は『SAS プリンス・マルコ』シリーズを紹介。

著者のド・ヴィリエはフランスの人。このシリーズだけで180冊近く書いている多作家ですが、元は国際政治ジャーナリストで、作品数の割には作家デビューは遅かったようです。日本ではシリーズ全編の翻訳はされておらず、初期の作品の内50編を東京創元社が、他に数編が別の出版社から刊行されています。私が所有しているのは創元版の50冊で、他社の作品は未読です。というか、創元版すら全部は読んでいません。その理由については後ほど。

次は作品について簡単に。本シリーズは国際スパイ小説で、創元版の書かれた時期が1960年代から80年までのため、内容は違えど舞台はすべて東西冷戦下の時代となっています。現代から見ると、有色人種に対する扱いなどに隔世の感がありますが、私の読んだ限りでは、設定面で荒唐無稽な点(某作品におけるスペクターの宇宙基地のようなもの)はなく、著者の前歴が十分に生かされていると思いました。

主人公はオーストリア人のマルコ・リンゲ。訓練を受けたプロの諜報員ではなく、神聖ローマ帝国時代から続く名門貴族の当主で、公(プリンス)の称号を有しています。作品のタイトルにある「SAS」というのは英国の空挺部隊ではなく、貴族の称号に付随する敬称のことです。

Son Altesse Sérénissime = 英語のHSH(His/Her Serene Highness)に相当。

これはモナコの君主と同じですね。欧州では社会制度としての貴族が廃止された後でも、私的に称号を継承したり、公的に土地や城館を相続している例は各国で見られます。税金やらなんやらで結構大変だったりするそうですが。

プリンス・マルコは複数の言語、様々な特殊技能に通じた超人的な男ですが、ハンガリーにあった先祖伝来の土地を「鉄のカーテン」によって失ったため、東側への不満と経済的な困窮から、アメリカの諜報機関であるCIAの非常勤エージェントを務めることになります。本人としては、金のために嫌々の仕事であり、CIAはもちろんアメリカに対しても忠誠心などは持っておらず、ビジネスライクに徹しています。そういう点で「女王陛下のダブルオー」とは異なっています。ボンドさんと似ているのは女好き、というところくらい。ただ、そのわずかに似ている点が、後々私の評価に影響することになります。

さて、ここからが本題。まずは私とこのシリーズとの出会いから。

私は子供の頃から創元のミステリが好きでよく読んでいました。クロフツとかカーなどのベタなあたりを。創元文庫は割と回転が早いというか、良作であってもすぐ絶版になったりするので、私は主に古書でそれらの作品を入手していました。

で、昔の創元文庫は巻末に既刊書を大量に羅列し紹介していたのですが、その中でとくに私の目を引いたのが、この「SAS」シリーズとドン・ペンドルトンの「死刑執行人」シリーズでした。とにかく巻数が多いのと、外国名や都市名を組み込んだ派手なタイトルが好奇心旺盛な子供心を大いに刺激したのです。「いつか必ず全巻揃えてやるぞぉぉぉ!」と思いつつ、大人になった時には既に両シリーズとも絶版という悲劇に。

その後、「死刑執行人」シリーズは全巻入手。こちらは全て読破しているので、いずれここで取り上げたいと思っております。一方、「SAS」はなかなか機会に恵まれず、8年前、古書のオークションサイト巡りをしていた際に偶然全巻セットが格安で出ていたのを発見し、即購入。状態も悪くはなく、念願を果たしたことに満足しておりました。

が…。

前述のように、せっかく入手したにもかかわらず、全巻読破はしておりません。一応、既読の巻を読んだ順に挙げておきます。刊行順ではありませんが、このシリーズは基本的に1話完結の形式なので、主人公の為人や背景を知っていれば、どこから読んでもとくに問題はないと思います。そもそも創元版自体が、様々な事情からフランス本国のものとは刊行順序が違っているので。タイトル後の数字は創元版の巻数です。

 

セーシェル沖暗礁地帯 (1)

イスタンブール 潜水艦消失 (2)

イランCIA対マルコ (3)

日本連合赤軍の挑戦 (6)

エチオピア皇帝の宝 (16)

ハンガリー 我が祖国 (47)

ワルシャワ 同志を売る男 (18)

ケネディ秘密文書 (15)

ソマリア 人質奪回作戦 (4)

 

途中で挫折した理由は面白くないからではありません。というか、娯楽的な読み物としては、長期継続作品には付きものともいうべき「途中の駄作」がある点を考慮しても、非常に出来は良いと思います。ただ、マルコの度を過ぎた女好きと、それに伴う過激な性描写が続くことにどうしても耐えられず、ついに4巻を読み終えた時点で力尽きてしまったのです。私も男である以上、そういうのが嫌いな訳ではありませんが、それはあくまでも実生活での話であって、創作物においては、キャラの個性付けの範囲を超えた性描写には辟易します。マルコの女好きは尋常ではなく、「女とヤルことしか頭にないんじゃねーか?」レベル。ドン引きです。映画のボンドさんシリーズもそうですが、この時代のこのテの作品には、セックスシーンをふんだんに盛り込むのがお約束だったのでしょうか。本シリーズに関しては、個人的にはそういう部分を排除しても(した方が)傑作になりえたと思うのですが。

もう一度言いますが、娯楽作品としては決して悪くはないです。過激な性描写が気にならない人には十分おすすめできます。冷戦時代に関して、ちょっとした知識も得られますし。まあ、冒頭で静かに、と言っておきながら、静かに読める作品ではありませんが。